Zombie魚改

   

昼間強い風が吹いたと思ったら、夕方には何事も無かったかのように止んでいる……。 春の夕凪は1-1のように心地よく、夏の夕凪は4-5のようにじめじめしています。 良い季節、良い日の中にもよい時間があるのです! 見つけたら機を逃さずに自分へのキラ付けをしておきましょう!(???)

 

タイトルから分かるとおり、前回の話の続きです。

これはぼくの友達の話なんだけど……。

ふるいふるい長い長い話が始まります。

 

 

 五月病から六月の梅雨っぽいおそるべき話!

 

とある会社に転職したての頃、新天地に辿り着くことが出来てうれしまみれだった彼は、期待と緊張をお供にして先人達の話をよく聞いた。

 

彼はひどい人間だったので、ともに働くことになった人間を片っ端からランク付けし、有益でないと感じた同僚とコミュニケーションをとろうとしなかった。 Aと尋ねてBと返答してくれる人間を頼り、それ以外の人間と関わるのをこっそりと避けていた。

 

彼は仕事を覚えるのが苦手ではなかったし、先人達に対して敬う気持ちを持っていた。 これが自分の求めていた仕事だといわんばかりに以前の何倍も仕事に打ち込み、数ヶ月もすれば仕事を任されるまでになった。

 

彼は自分のことをよくない人間だと心得ていたが、その上で自分という人間に満足していた。 給料は下がったものの、自分が望む会社に出会う事ができ、言いようのない満足感を得ていた。 彼は自分の英断を褒め称え、この仕事こそが天職だと信じて疑わなかった。

 

『やっぱり自分に合った仕事をするべきなんだ。 つまらない仕事をして趣味に生きる人生……これほど意味の無い人生はないだろう。 これで恋人の一人でもいれば、この世に自分より幸せな人間は居ないのではないか』

 

自分でも気付かぬうちに彼は死の旗を立ててしまっていた。

 

 

 

ある仕事中、彼は目の奥に激しい痛みを感じた。 過労だと思い、少し休んだ後に仕事に復帰した。 彼はそのまま吐いて倒れた。 病院で検査したものの悪いところは見つからず、彼の予想通り過労だろうという結果となった。

 

たっぷり体を休めた後日、彼は仕事に復帰した。 あやうく過労死するところでした、働きすぎは駄目ですね、無理しない程度に頑張ります、さあ今日の仕事を、と思った直後に彼は再び吐き気を催し、眩暈とともに倒れた。

 

後で分かった事だが、彼が最初に倒れた時、その場に居たのは『人間語を話せない』と彼が見下していた同僚達だった。 プライドの高い彼はその同僚たちの前で自分が倒れたことが許せなかった。 彼が最初に倒れた時こそ単なる過労であったが、人を人と思わずにのけものをつくるという彼の悪癖が災いし、精神病という形で彼に襲い掛かる事になる。

 

彼は仕事に向かうたびにその事がフラッシュバックし、仕事が出来ない体になってしまっていた。 仕事をしようとした途端に強い眩暈や吐き気が押し寄せた。 彼は自分の置かれている体の状態や原因に気が付かず、どういうわけか仕事が仕事にならない自分を恨んだ。 彼は次第に恐怖に取り憑かれるようになった。

 

恐怖は彼のあらゆるところに伝染していった。 会社の建物に入る事、同僚と会う事、電話に出る事、パソコンに向かう事、背広を着る事、人と話す事……。 何をするにも眩暈がしてまともに動けなくなり、彼は会社に帰らぬ人となった。

 

 

自分の精神と戦う毎日が幕を開けた。

 

 

彼にとって致命的だったのは、『何もできない』の中に『目を使う事』が含まれていた事だった。 これも後で判明した事だが、彼は集中して目を使うとすぐに目の前がまっくらになってしまうほどに精神をやられていた。 それゆえに本を読む事ができず、また僅かな緊張状態であっても判定は赤であり、大好きなゲームをする事を禁止せざるを得なかった。

 

仕事に加えて趣味を封じられたことが彼に止めを刺した。 数ヶ月もすると、彼はチラシの裏にひらがなをびっしりと書いたり、箸を逆さまに持ち、右利きにも拘らず左手でご飯を掬ったり、右手の人差し指が左手の人差し指よりほんの少しだけ短い事を疑問に思い、もしやそれが大変な病気に関わっているのではと恐怖して丸2日間眠れなかったりした。

 

精神が病んでから二桁の月を跨いだころ、彼は謎の頭痛と戦う毎日を過ごしていた。 その頭痛もまた脳の病気に繋がっているに違いないと決め付け、自らを精神病の負の連鎖に縛りつけていた。 にもかかわらず、彼は精神病院に駆け込む事をしなかった。 彼にとって精神病とは負け組のものであり、負けず嫌いな彼のプライドが、かろうじて働く脳みそを悪い方向に押しとどめていた。

 

彼はなにもできなかった。 寝ているか、自分の部屋の中をさまようかの2択だった。 彼の目はあの死んでいると思った日のそれよりも余程暗く、不健康な生活によって彼の心身は本物のゾンビと化していた。 左右反対の自分を見るなり、ゾンビは死ねと罵った。

 

ふと、彼は思った。

 

なんてみじめなんだ。

 

地球上にいる人間の中で、自分が一番、弱い。

 

自分が出会ったどの人間よりも、醜くて情けない。

 

自分は、最低だ。

 

負けず嫌いの彼が初めて負けを認めた瞬間だった。

 

 

 

この時、彼の精神はこれを好機と捉え、自分のルールに対して狡猾に戦った。 頭がおかしいならMRIで診てもらえばいいじゃない。 自分はもうこれ以上落ちぶれようがないし、病院で倒れてもそのまま入院するだけだし、検査するだけだから精神病院に行ったとはいえないはず……(???)

 

彼は自分の生活のどうしようもなさにうんざりしていたので、倒れそうになりながらも頭痛の外来に飛び込んでみた。 どうしたんですか、ええ頭が痛くて、まいにち眠れないほどです、それはたいへんだ、すぐにCT(X線で頭の断面図を見る奴)とってMRI(電波で頭の断面図を見る奴)でみてみましょう。

 

この頃の彼にとって頭痛が一番の悩みの種になっており、眩暈がしたり吐き気がしたりするのは脳の異常が原因だと決め付けていた。 病院に駆け込むまでの半年間、寝る直前に『明日、きっと目が覚めないだろうな』と思いながら眠るのが常となっていて、どんな酷い病気の名前が出て医師を驚かせるのかと内心ワクワクしながら検査を受けた。

 

これから長い入院生活が始まるのだろうか。 それとも今すぐ手術と言われるだろうか。 そんな事を考えながら検査は終了し、恐る恐るの興奮を手にしながら彼は尋ねた。

 

先生、私の頭はどうでしたか。

 

先生は神妙な顔をして彼に言った。

 

綺麗な血管だね。 悪いところは無いよ。

 

は? なんですと?

 

本来ならMRIの後に他の先生と話し合って結果を出すから、3日後くらいにまた来てもらっているんだけど、何も悪いところは無いと思うよ。 ストレスとか、精神的なものじゃないかな。 生まれつきの偏頭痛でないなら、緊張型の頭痛とか……ともかく病気ではないよ。

 

予想と全く異なる結果を与えられた彼は、自分の中から何かが消えていくのを感じた。 それは精神的な病の根っこであり、彼が仕事をしていた時には無かったものであった。 その日から、彼が頭痛で悩む事はなくなった。

 

彼は徐々にゾンビの生活から抜け出していった。 精神的な病気は無くなってはいなかったが、思考がポジティブになり、時間を決めることで本やTVも観れるようになった。 そんな彼にとって最も嬉しかったことは、1日30分程度であればゲームが出来るようになった事であった。

 

彼はもう会えないと思っていたゲームたちと毎日わずかな会話を交わし、精神を回復させていった。 そのうち絶っていた友人達との連絡も復活させ、無くしたものを少しずつ取りもどしていった。 そんな彼はある時、友人からとあるゲームの誘いを受ける。

 

 

「艦これ」っていうのが流行っているらしくて、やってみたら面白かった。 激しいタイプのゲームじゃないし、一緒にやろうぜ。

 

 

彼は誘われるがままに艦これを始めた。 ゲーム好きな彼もブラウザゲームは初の体験だった。 なんじゃこりゃ、何をすればいいんだ、出撃か、おお倒した、レベルが上がった、資材を使うのか、もう無くなった、時間がたてば増えていく……。

 

気がつくとその日が終わろうとしていた。 彼は驚いた。 今まで1時間もパソコンの画面を見ていれば即座に気分が悪くなり、問答無用でその後30分は動けなくなっていたからだ。 資材が無くなったときは食事の準備をしたりと、張り付いてゲームをしていたわけではなかったのが幸いしたのかもしれない。 ともかく、彼は精神病にかかってから初めてゲームをまともにプレイした。 それも1日という長い時間を。

 

彼は嬉しさのあまり泣いた。 彼自身、普通にゲームが出来る事がここまで幸せだとは夢にも思っていなかった。 こんな自分にも良くしてくれる友人と、艦これという謎のゲームに感謝した。 それから彼は段々と出来る事が増えるようになり、それ以外の時間を艦これに費やしながらも社会復帰の準備を進めていった。

 

彼は思う。 あの時の艦これはまさしく自分にとっての水であった。 骨となり陸に打ち上げられた自分に、再び泳ぐきっかけをくれたのがこの謎のゲームである、と。

 

 

生きている事にすら感謝するようになった彼はすっかり丸くなり、自分と関わるあらゆる人間に対して、敬う心を忘れないようにと心がけるようになった。 仕事というものに対して漠然と持っていたイメージは彼の中で崩れ、また一から築き上げられた。

 

不幸を知っている人間は幸福を知っている。 絶望に対する耐性を得た彼は、子供の頃の夢を叶えるために一人どこかへ出かけていった。 噂では艦これの攻略サイトを立ち上げて、見ず知らずの提督を助けているのだとか。

 

このさき彼が艦これをやめてしまうことがあっても、彼が艦これに対する敬いと感謝の気持ちを忘れることは無いだろう。 彼に代わって感謝を伝えたい。 艦これに関わる全ての人間と、ここまで読んでくれたあなたへーーー『バーニング・ラブ』。

 

 

-おしまい-

 

※たぶんおおよそフィクションです

 - 艦これ, 雑記